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vol.46Bizread Report

新卒採用のプロフェッショナルに訊く

〝超〞短期決戦の〝超〞売り手市場
〝採用・就職戦線〞2017

 来年3月に卒業する大学生らを主な対象にした2017年度の採用・就職戦線は、どのような展開だったのだろうか。
各種データ―や、新卒採用支援を手掛ける専門家の声を踏まえながら、今年度の採用・就職戦線を振り返り、今後の動向を展望する。

短期決戦の売り手市場の採用・就職戦線に起きる地殻変動

2017年度の就職採用戦線は従来、「短期決戦」「売り手市場」といわれることが多い採用・就職戦線の中でも、さらに上をいく〝超〞短期決戦、〝超〞売り手市場だったといえる。
株式会社リクルートキャリア(東京都千代田区 小林大三社長)の研究機関である就職みらい研究所(岡崎仁美所長)が9月29日に発表した、9月1日時点での大学生(大学院生除く)の就職内定率は88・4%で、前年同月を1・8ポイント上回った。

9月1日時点での大学生の「就職内定状況」

就職内定率88・4%という数字は、1カ月前の8月1日時点に比べても4・2ポイント伸ばしている。経営者の右腕となるCHRO(最高人事責任者)をテーマに人材採用や社員教育をする株式会社ブレスカンパニーの坂東孝浩代表取締役社長は、「新卒を採用する企業にとっては、苦労が多かった年だったのではないか。具体的には、学生のエントリー社数の減少で個別説明会などへの動員が難しくなっている。さらに優秀な学生については、東京・大阪の大手企業がインターンシップなどで先に囲い込む動きもあって、一般企業にとっては学生との出会いが少なくなっている」とみる。加熱し続ける売り手市場において、短期決戦の傾向をよりいっそう強めていく採用・就職戦線では、新たな地殻変動の兆しもみられる。

9月時点で8割が就活終了、関心は来期の採用動向へ

「就職が厳しかった5〜6年前は学生一人あたり20〜30社応募していたが、現状は実質5〜7社しか応募していない」――。
今年10月に九州生産性本部が初めて開講した人材獲得・採用セミナーで講師を務めたココロデザイン株式会社の一本亮代表取締役は、出席した地元経営者や採用担当者らに実情を語った。
人事コンサルティング(組織強化、人事戦略、労務政策)をはじめ人材採用や教育研修業務などを手掛ける一本代表は、「学生は正味の就職活動期間が3カ月しかないと感じており、就職活動の在り方が変化してきた。
従来は合同説明会や就職サイトから個別の企業説明会に進む流れだったが、今はインターンシップや業界研究会から個別の企業説明会へと様変わりしている。この短期化により、企業側も大量母集団からの大量振るい落としでなく、適正な母集団からの一本釣りをすべきだ」と熱弁を振るった。

9月1日時点での大学生の「就職活動実施状況」

今年度の就職活動のスケジュールは前年と同様だったこともあり、リクルートキャリアの調べによると、2月〜4月における就職志望者の就職活動実施率は、ほぼ前年と同じ傾向がみられた。就活解禁前の2月1日では昨年とほぼ同様で、就活解禁日を迎えた3月1日には95%を上回る学生が活動していた。その後、内定が昨年を上回るペースで出るにつれて、就職活動を終了する学生も増えていった。
9月1日時点における大学生の就職活動実施率は18・0%で、前年同月に比べても3・4ポイント低かった。つまり、9月に入った時点で大多数の大学生が就職活動を終えた状況にある。このため、採用担当者は、来年度となる2019年春卒業予定の大学3年生らの採用活動へと関心の軸足が移りつつある。
企業の採用活動と学生の就職活動をつなぐ新卒採用支援・就職支援イベントを企画・運営に取り組むメディア総研株式会社の田中浩二代表取締役は、「地元の中小企業の新卒採用策としては、早期の有給インターンシップのプログラム化ができれば、採用活動を進めていく上で、近道になる」とエールを送る。

景気拡大と人材不足感で新卒需要拡大の一方、供給は横ばい

 新卒学生の採用・就職戦線は、景気動向や求職求人状況に大きく左右される。福岡県企画・地域振興部調査統計課の資料によると、2013年1月以降、県内の景気はおおむね拡大基調にある。景気の良し悪しを判断する手法として、よく用いられるのが、DI(DIffusion Index)だ。DIでは、多くの経済指標の中から選んだ景気を敏感に反映する指標が50%を上回ったときに景気拡大局面、逆に50%を下回ったときに景気後退局面と判断する。

累積景気動向指数(累積DI)グラフ(1965年~)

今年7月の福岡県景気動向指数(速報)では景気の現状を示す一致指数こそ42・9%を示すものの、景気の先行きを予測する先行指数は71・4%で、景気の動きを最終確認する遅行指数は78・6%となっており、景気は引き続き、拡大基調にある。
景気拡大を受けて、雇用も増加している。福岡労働局の『雇用失業情勢(2017年8月分)について』をみてみると、雇用は着実に改善が進んでいる。
8月の有効求人倍率(季節調整値)は、前月比で0・01ポイント増の1・51倍で、過去最高水準を記録した。
「人材不足感は依然強く、非製造業で6割を超える」――。福岡県経営者協会が7月に発表した『平成29年第1回 雇用問題等アンケート』の調査結果では、地元企業における人材不足の現状を指摘する。

累積景気動向指数(累積DI)グラフ(1965年~)
累積景気動向指数(累積DI)グラフ(1965年~)

リーマン・ショック以降、緩やかに増加傾向にあった〝人材不足〞は、 前回調査(2016年秋調べ)に比べて、4・2ポイント増加の56・4%と過去最高となった。製造業で人材不足と回答した企業が37・0%だったのに対して、非製造業は6割超(64・2%)と、深刻度は大きい。
一方、2017年春に新卒採用した企業のうち、5 割超(51・9%)の企業が、採用枠を前年より増加させていた。新卒採用企業が増加した理由としては、「退職者(定年も含む)増加に伴う補充」(52・4%)、「事業拡大、新事業拡大」(21・4 %)が挙がっている。2018年春の新卒者採用数については、前年と同数以上(「増やす」もしくは「変わらない」)と答えた企業が7・5ポイント増加して71・3%となるなど、さらなる競争激化が予想される。

総合人材サービスのアソウ・ヒューマニーセンターグループで新卒採用支援事業や大学支援事業を担当する株式会社ユニバースクリエートの清田洋副部長は、「新卒の採用企業が増え、さらに採用人員も増えたにも関わらず、大学生の数はほぼ横バイなので競争が激しかった。特に地元の中小企業の場合、エントリーする学生の少なさに加えて、せっかく内定を出しても辞退してしまう傾向が強く、追加募集してもなかなか集まらない状況にある」と話す。

新卒採用のカギは、エントリー数確保と選考歩留率の改善

毎年、厳しさを増す新卒の採用活動において、成功するポイントはなんだろうか。
この点について、ユニバースクリエートの清田洋副部長は、「エントリー数を増やすこと、選考での歩留率を上げることの2点に尽きる。
エントリー数増は予算を要するが、歩留率向上は、エントリーから説明会や選考会などにおいて、学生目線に立った工夫や配慮、迅速な対応などで高めることができる。アウトソーシングできる業務については外注を検討していく企業も増えてきている」という。
昨今、取り沙汰されている就活生のエントリー数が減少している要因については、「採用媒体や採用サイトに学生の欲しい情報が無いからといえる。学生の就職活動はネット時代の消費活動とよく似ていて、まず知った上で行動する。このため、逆に知らないと、恐怖心を感じてハードルになりがちなので、学生が求める情報(説明会や選考会の内容・手法、具体的な仕事の内容、職場の雰囲気など)を伝えることが不可欠になる」と、ブレスカンパニーの坂東社長は考察する。
その上で、「企業は、《すべて可視化》する努力をすべきであり、スマホに対応した採用専用サイトを開設して、応募者が知りたい情報や見たい内容を提供していく取り組みを通じて、応募者に《行ってみたい》《受けてみたい》というマインドに高めていくことが重要になっていく」という。
また、ココロデザインの一本代表は、「個性・能力ともに粒揃いだった優秀層が減少した今日、数少ない優秀層の追求でなく、欲しい人材像を明らかにして、彼らを追求していくべきだ。彼らの判断軸も変化しており、一方的な提供でなく、適正な情報を提供しながら、面接などの場面でもコミュニケーションを重視して、しっかりした人間関係を築いていくことで『ここで頑張ってみよう』という動機を醸成させることが大切だ」と考える。

従来の募集法に加え、温故知新の『リファーラル採用』が登場

採用難や人手不足の深刻化などで従来の募集手法での採用が難しさを増す中、アメリカなどで一般的な採用活動の一つである、紹介スタイルの採用である「リファーラル採用」と呼ばれる手法も注目を集める。
「経営者や社員らの個人的なつながりを通じて自社の魅力や社風を効果的に伝えていくことによって、自社の企業文化や社風とマッチした人材を採用していく『リファーラル採用』が人材採用の原点ともいえる」(田中メディア総研代表)。新卒採用でも脚光を浴び始めたリファーラル採用については、評価・支持する採用コンサルタントは多い。

 ヒト・モノ・カネ・情報……、これらの経営資源を生かしながら、企業は経済活動に勤しんでいる。経営資源の中でも人材分野は大きなウェートを占め、新卒大学生をはじめとする人材採用や教育・育成は、企業の浮沈もかかわってくる。新卒採用では、経済状況や雇用情勢だけでなく、学生を取り巻く環境や気質の変化も踏まえながら、進めていくことが望ましい。

18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移
新卒者採用人数の増減(前年度との比較、過去対比