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vol.48Selection of company history

廣田稔氏廣田商事株式会社代表取締役

海から陸へ、そして未来へ

ユニークな賃貸物件を次々と生み出し、不動産業界にイノベーションを起こす一方で精力的にベンチャー支援にも取り組んでいる廣田商事株式会社代表取締役廣田稔氏。氏を突き動かす情熱は、一体どこから生まれるのか。80年続く会社の歴史とともに紐解いていこう。
文=市田里実

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「当社の創業者である祖父の廣田善吉は、徳島県で漁業を営んでいました。1年の半分は、徳島から長崎県五島列島の玉之浦へと渡り、そこを拠点に東海や黄海へ漁に出る。漁のシーズンが終わると、徳島に帰る。そんな生活をしていたそうです。しかし、1934年福岡市から要請を受け、祖父を含む徳島県遠洋底曳出魚団は、徳島から博多漁港へ移り住んだそうです。今思うと、まさに命がけ。これこそベンチャーですよね」と、廣田稔社長は笑う。

船員とその家族を合わせ4000人近い人々が200隻以上もの船とともに、新天地・福岡を目指して海を渡った。その中には、福岡倉庫や増田石油、トクスイコーポレーションなど、福岡経済を牽引する名だたる会社の創業者も含まれていたという。

「2代目である父・杉雄の時代は、漁獲量の減少や200海里問題など、漁業を続けていくことが段々と難しくなってきました。そのことにいち早く気がついた父は、周囲の反対を押し切り、不動産投資を手がけるようになりました」

杉雄さんは、皆が寝静まっている早朝からバイクに乗り、福岡市内のあちこちを周り、投資にふさわしい土地を探していたという。こうして廣田商事の不動産業の礎が築かれていったのだ。

「私が廣田商事に入社したのは、1994年30歳のときでした。この時は、すでに会社の主な事業は不動産業となっていました」

廣田氏が入社してから、わずか5 年後の1999年。父であり、社長である杉雄氏の肺がんが発覚し、半年後に他界してしまう。

「ちょうどこの頃、天神にある天神廣田ビル(現ibb fukuoka)のテナント入居がゼロになったんです。もし、父が元気だったらどうしようか、相談していたでしょう。でも、父はいない。だからこそ、自分がやりたいことに挑戦できたんだと思います」

東京で行われたナスダックジャパンの説明会で孫正義氏の話を聴き、「これからはベンチャー企業の時代だ。ベンチャー企業が集まるような場所を作りたい」と思った廣田氏は、「福岡ベンチャービル構想」をまとめ、「ibb fukuoka」を立ち上げたのだ。

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脈々と受け継がれるチャレンジスピリットで
元気な福岡を創造する

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全戸に防音室を完備した「ibbDb桜坂Launch」なら、周囲を気にすることなく、いつも好きな時に音楽を楽しむことが可能だ。また、1階のカフェでは、定期的にボサノヴァやジャズのコンサートなどが開催されている。
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右)2017年8月にオープンした「スーパーホテルLohas博多駅・筑紫口 天然温泉」は、アクセスの良さと天然温泉が魅力的。
左)「健康的な毎日を過ごしたい」という願いを叶えてくれる、居室内、テナント、共有部を含めた敷地内全てが禁煙のマンション「iN SHAPE大濠」。
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集合住宅で寄せられる苦情のうち、タバコに関する苦情は結構多いという。健康志向の人々からの問い合わせが続き、即満室となった。
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子育て支援マンション「ibb Wish長丘」では、地域の人との交流会が定期的に開催されている。

ベンチャー企業でも入居しやすいよう、家賃は格安に。そして、株式発行数の5パーセントほど出資する。起業の課題となる資金調達や財務、法律などの相談にも乗るなど、ハード面はもちろんソフト面でも痒いところに手が届くような支援を行ない、さまざまなベンチャー企業を今日まで支え続けてきた。今まで入居した企業はなんと150社を数え、上場企業も出るなど、確かな結果が出ている。

「私たちのような不動産業は、福岡市内が発展していかないと、利益が出ないと考えています。私たちの商品は、福岡の地べたです。だからこそ、福岡の企業が元気で、街が発展し、人口が増えていくことが何よりも大切です。だからこそ、街の発展に貢献すべきなんです」

こうした廣田氏の強い思いは、ベンチャー支援だけでなく、不動産業へもしっかりと反映されている。2006年姪浜にオープンした「ibbwill姪浜」は、当初はベンチャー企業向けのオフィス兼住居として、家賃が1年間半額になるだけでなく財務や法務などのビジネスサポートもあり大変好評だったという。(現在、このような機能は、すべて「ibb天神ポイント」に集約されている。)また、2007年には1階に保育園を併設した賃貸住宅「ibb wish長丘」をオープン。子育て支援はもちろんのこと、保育園を中心に、地域の子育て世代が繋がり、地域コミュニティが生まれているそうだ。他にも、自宅で楽器の練習をしたいというミュージシャンの願いを叶えるような、防音設備を完備したマンションを2 0 1 3 年に、全室禁煙賃貸マンションを2017年にオープンさせるなど、画期的なアイデアを次々と形にしているのだ。これらの物件は、「福岡の街を元気にしたい、地域に貢献したい」という、強い、確固たるビジョンがあるからこそ生まれたと言っても過言ではないだろう。

そんな廣田氏が情熱を注いでいる、もうひとつのプロジェクトが、今年で5回目を迎える、経営者向けのスクール型プログラム「ibb BizCamp」だ。(詳細は次頁参照)。経営に必要な法務や労務、資金調達、経営計画、営業、マーケティングなどを学べることはもちろん、グループディスカッションや自社の経営に落とし込んでの課題発表など、アウトプットまでしっかりと行うため、終了後には5年後の自社のビジョンが明確になるという。

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「輝きつづけるまち・福岡の思い在る創造」という企業理念を体現した、廣田商事株式会社本社ビル「ibb CORE港」

「特に力を入れているのが、明確なビジョンや理念の確立です。「ibb BizCamp」では、ここをしっかりと確立していきます。私自身もそうですが、明確なビジョンや理念があれば、ブレることなく、経営を進めていくことができるんです」。ユニークな不動産開発と、ベンチャー支援。一見すると異なる事業に思えるが、その根底には『輝きつづけるまち・福岡の思い在る創造』という企業理念があり、福岡を元気にしたいという願いが込められているのだ。

そんな廣田氏に読者へのアドバイスを伺った。 「何より大切なのは、覚悟だと思います。一度『やる』と決めたら、覚悟を持ってやり続けて欲しい。例えば、イベントをしても、1、2回で辞めてしまう人が多いですよね。でも、最低10回はやって欲しい。また、起業したら10年は続けて欲しい。結果は、そこから出るのですから」

明確なビジョンを持ち、やりつづける覚悟を持つ。廣田氏のあくなきイノベーション精神は、このふたつの信念に支えられているようだ。

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今年で12回目を迎える、年に1度開催のib be united party。ibbに関わる様々な起業家・支援者が300名近く集まる大交流会で、確かな人脈が広がっていく。
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廣田稔氏廣田商事株式会社代表取締役

親子三代にわたって福岡の発展に尽力して来た原動力は、祖父の時代から脈々と受け継がれるベンチャー精神に在るのかもしれない。