中小企業のIT化はクラウドで

vol.46Bizread Interview

江口一樹氏中小企業診断士

中小企業のIT化はクラウドで

企業の人手不足が加速している。人手不足に対処するにはIT(情報技術)活用による労働生産性の向上が欠かせないが、中小企業にとって、自動運転に代表されるIoT(モノのインターネット)に巨額の投資をすることは不可能だ。資金力に乏しい中小企業向きなのがクラウドコンピューティングサービス(クラウドサービス)である。

人手不足は長期的な経営課題

 厚生労働省が発表した2017年8月の有効求人倍率(季節調整値)は1・52倍と、1974年2月以来約43年ぶりの高水準になった。今回の人手不足はアベノミクス(安倍政権の経済政策)の成果である一方、人口減少社会を迎えた我が国の構造問題でもある。構造問題である以上、経営者は人手不足を長期的な経営課題ととらえる必要がある。よい人材を採用するには賃金を上げるなど待遇をよくしなければならないが、それが難しい場合は労働生産性を向上させるしかない。

クラウドサービスと従来型との差異
クラウドサービスと従来型との差異

ところが、我が国の労働生産性は世界的に見てかなり低い。日本生産性本部がまとめた「労働生産性の国際比較 2016年版」によると、2015年のわが国の時間当たり労働生産性(購買力平価換算USドル)は42・1ドルで、OECD(経済協力開発機構)加盟35カ国中20位だった。1 位ルクセンブルク( 95・0ドル)の半分以下、5位米国( 68・3ドル)の6割強にとどまる。

 

産性が低い最大の理由は、ほかの先進国と比べてITが十分に活用されていないことにある。厚生労働省が「平成27年版労働経済の分析(労働白書)」で日米を比較した結果、我が国は非IT資本が大きく寄与した一方、米国はIT資本の寄与が比較的大きいと分析している。

中小企業向きのクラウドサービス

なかでもIT化が遅れているのが中小企業だ。中小企業庁の「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」によると、中小企業がIT投資を行わない理由としては、「ITを導入できる人材がいない」「( 43・3%)、「導入効果が分からない、評価できない」( 39・8%)、「コストが負担できない」( 26・3%)が上位を占めた。
そうした問題を解決するのがクラウド(英語で「雲」という意味)サービスだ。従来型ITが、サービスを提供するサーと処理を依頼するクライアントの2つのコンピュータを組み合わせた「クライアント・サーバ型」であるのに対して、クラウドサービスはクラウド提供事業者(ベンダー)のサーバにインターネットを通じて利用する。大規模なサーバを自前で用意する必要がないため初期費用や導入時間が抑えられるうえ、必要最小限のサービスから導入してあとから付加することもできる。クラウドサービスはまさに中小企業向けのITと言っていい。

クラウドサービスを利用する際の期待や課題例(表2)
クラウドサービスを利用する際の期待や課題例(表2)

「何のために導入するか」を明確に

 ではどうやってクラウドサービスを導入すればよいかを、独立行政法人情報処理推進機構が発行している「中小企業のためのクラウドサービスの手引き」(以下、クラウドサービスの手引き)を参考に見ていこう。
まず、導入する際に重要なのは、「何のために導入するのかを明確にすることだ。
クラウドサービスの手引きによると、クラウドサービスを検討するポイントは、「業務効率」「ITの負担」「ITを活用したビジネスの展開」の三つに大別される。表2で自社の課題をチェックするといいだろう。

クラウド導入企業は労働生産性が3割アップ

次に自社の課題をもとに、どの業務、どの情報を扱うかを決める。
総務省の「平成28年通信利用動向調査」(以下、通信利用動向調査)によると、企業が利用しているクラウドサービスは、電子メールが51・7%で最も多く、ファイル保管・データ共有( 50・7%)、サーバ利用( 46・7%)が続く。
最初はこうした電子メールやファイル保管用のセキュアストレージ(保証格納域)などに対象範囲を絞ってサービスを利用してもいいが、最終的には、営業・技術情報の共有・相互活用などによって売り上げを増やす手法として活用することが重要だ。
ある食品問屋では、営業マンにタブレット端末を持たせて現場で注文を受けた際にはその場で在庫を確認、発注して短納期を実践するとともに、帰社してからの注文書作成などの作業を減らしている。販売機会の損失が防げた結果、売り上げ増につながったという。
実際、クラウドサービスを導入した企業の労働生産性は高い。前述の通信利用動向調査によると、クラウドサービスを利用している企業の一人当たりの労働生産性は、利用していない企業より32・6%多い752万円だった。

利用しているクラウドサービス

自社にあったサービスを選ぶ

 何を導入するかを決めたらどのクラウドサービス、提供事業者を選ぶかに移る。
クラウドサービスには、アプリケーションソフトまでフルセットで提供するSaaS(サース、ソフトウェア・アズ・ア・サービスの略)、OSやミドルウエアまで提供するPaaS(パース、プラットフォーム・アズ・ア・サービスの略)、ハードウエアのみを提供するIaaS(イアース、インフラストラクチャ・アズ・ア・ザービスの略)の3つがある。人材や時間が制約される中小企業にとってはSaaSを利用するのが一般的だ。
 代表的なクラウドサービスとしては、 Google Apps(グーグルアップス)、Amazon  web services (アマゾンウエブサービス、AWS)、Sales force CRM(セールスフォース シーアールエム)などがある。それぞれ得意とする提供事業者がいるので、ひととおりサービスの説明を受けてから自社のニーズに合った業者を選定するといいだろう。提供事業者によっては試用期間を設けているところもある。

業者を選定する際には、

  1. サービスの稼働率、障害発生の頻度、障害時の回復目標時間などのサービスレベルが開示されている、
  2. セキュリティ対策は具体的に公開されているか
  3. サービスの使い方が分からないときの支援(ヘルプデスク、FAQなど)は提供されているか
  4. サービスが終了した時のデータの取り扱い条件はどうなっているか

も確認しておきたい。

最後に。IT導入に際しては国から補助金や助成金が受けられたり、補助金を利用して国や都道府県からITコーディネータなどの専門家を派遣してもらう制度もある。クラウドサービスの導入を検討する際にはこうした情報の収集も欠かさないことが重要だ。

江口一樹 中小企業診断士

江口一樹氏中小企業診断士

1960年2月生、福岡県北九州市出身。早稲田大学第一文学部卒。日本経済新聞社勤務を経て、1988年に帝国データバンクに入社、福岡支店情報部長、東京支社情報部長を歴任、2015年5月に独立。中小企業診断士として講演会の講師をはじめ、経済記事の執筆など多方面で活躍する。